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第十九回文学フリーマー、フリーマー

邦題ですとまるで傲岸不遜な消費者がぞろぞろ出て来る話を描いた作品なのかと思ってしまうあの映画、なのかと思ってしまう標題になりました。あれは「vs」を「対」と訳すだけでも随分違ったと思うのですが、当然それは候補に上った筈であって、ゴジラ対モスラみたいな印象になっちまうのを避けたものか。そのような催しが十一月二十四日、開かれました。どのような催しか。

今回は、事情により編集長が、開場前のブース設営だけを監督して帰ることになり、平野独り、現場を守る成行きです。だが、独りと云いましたけれどもじつは、仲間はちゃんと、いてくれました。

まず、オグリキャップがいる。

この辺り平野は何も知らない朴念仁で、モーグリ軍団の主将のことかしらんなどと思い描いてしまうのですが、競走馬だということくらいは知っています。ついさっき編集長は帰ったのだが、ふと気付くと机の上に、オグリキャップがいる。おや、と少し驚きましたが、なるほどとすぐに思い当りました。毛を吹いて分身を作り出す孫悟空のように、編集長は、その黒髪を一本残して吹いておいてから去ったと見えます。オグリキャップは、静かで深い瞳をしておる。オグリキャップは、ふさふさしておる。オグリキャップは、手のひらサイズである。編集長の分身にして、あの娘は可愛い看板娘、という格です。おやそう云えば牡馬だったかな牝馬だったかな。

それから、鯖がいる。

こちらは平野の同居者で、平野が文学フリマに参加するときはつねづね手伝って貰っています。鯖は普段は、平野の部屋のそこいらにある適当な金属質に吸付いて大人しくしているのですが、そうした内気な性格の鯖にとって半年に一度の外出の機会が、文学フリマです。鯖はあんなに内気なくせに、いやむしろその奥床しさが人の心をそそるのか、売子として有能です。鯖の控え目で丁重な、塩気が利き脂の乗ったお客様対応のお陰で冊子が売れることもしばしば。文学なんぞをやろうという人々の集まりですから、セールストークは、あんまり商魂逞しい営業マンみたいなのよりも、鯖くらいでちょうど良いのかなと平野は感じます。「窓辺」の輝ける看板鯖です。

さらに、妖精が現れた。

写真アーティスト 卯月沙梨音さん が助っ人に駆付けて下さいました。手乗りの奇蹄目、魚類の切り身といった諸君の助力もむろん有難いのだが、それだけでは些かの限界があって、困ることもある。席を外しますと置き紙を残して一、二時間、自由に歩き廻る手はありますが、その不在の間の、知人の来訪やら売逃しやらが気に懸る。加えて、ちょいとだけ席を外したいという折に、厄介なもどかしさを覚えます。たとえば、重大であるが珍しくはない切実な生理上の欲求が徐々に高まって来るという場合などにです。そんな折、卯月さんがメルヘンチックにふわふわした歩みで登場なすった。助かった、と平野は思いました。早速ながらとブースを代って頂いて、およそ 120 秒間で生理的欲求を満足させて戻って来ました。すると、一冊売れている。妖精だ、と平野は思いました。

このようにお陰様で、文学フリマの場を乗切ることができました。周りの頼もしい協力の中で、肝心の平野は何をしていたかと申せば、おもに五円玉を磨くことに現を抜かしていました。

なぜ五円玉かという事情は、半年前のこの場でも述べましたが、495 円という価格設定をした冊子があることによります。平野の個人本『豆本』に 495 円と値を付けました。

そういう変な値段だから、お客様が出すものが千円札でも五百円玉でも、或いは百円玉× 5 でも、何だが知らんがたとえ十円玉× 50 だとしても、その返礼においては必ず、ちゃりんと音がすることになります。これを《ご縁お渡し価格》と称す。

やあ今回も、滑りましたね。駄洒落とは滑るために発動するものです。お買上げ下さった方の苦笑ないし失笑と共に、ちゃりーんとご縁が滑り渡ってゆきました。

なるべく少しでも見苦しくないご縁にしたいと思って平野は、閑に任せて、激落ちくんで五円玉をこすり続けていた次第です。如何に天下の激落ちくんと雖も、色褪せた五円玉に対しては、大した効果もなく気休め程度ではあります。しかし気は心だ。何だか指紋に黄銅の粉がたっぷり沁み込んだような気がします。
 
| 平野智志 | 21:15 | comments(0) | trackbacks(0) |
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